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カツラの葉っぱ 大好き!

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『ヒルビリー・エレジー』3

<『ヒルビリー・エレジー』3>
図書館に予約していた『ヒルビリー・エレジー』という本を、待つこと半年でゲットしたのです。
トランプ大統領を誕生させたラストベルトのヒルビリーたちは、如何なる人たちなのか…わりとホットなドキュメンタリーなんだろう。



【ヒルビリー・エレジー】
ヒルビリー

J・D・ヴァンス著、光文社、2017年刊

<BOOK」データベース>より
ニューヨーク生まれの富豪で、貧困や労働者階級と接点がないトランプが、大統領選で庶民の心を掴んだのを不思議に思う人もいる。だが、彼は、プロの市場調査より、自分の直感を信じるマーケティングの天才だ。長年にわたるテレビ出演や美人コンテスト運営で、大衆心理のデータを蓄積し、選挙前から活発にやってきたツイッターや予備選のラリーの反応から、「繁栄に取り残された白人労働者の不満と怒り」、そして「政治家への不信感」の大きさを嗅ぎつけたのだ。トランプ支持者の実態、アメリカ分断の深層。

<読む前の大使寸評>
トランプ大統領を誕生させたラストベルトのヒルビリーたちは、如何なる人たちなのか…わりとホットなドキュメンタリーなんだろう。

<図書館予約:(6/19予約、12/12受取)>

rakutenヒルビリー・エレジー


最後に「解説:渡部由佳里」を、見てみましょう。
p408~412
<解説> 
 トランプのラリー(大規模な政治集会)のロックな雰囲気は、国家予算や税金について難しい話を真面目にするライバルとはまったく異なった。トランプは「とてもひどい」などといった小学校で学ぶ程度の単純な語彙だけを使ってオバマ大統領をけなし、ライバル候補を揶揄し、マイノリティや移民を非難して群衆を湧かせた。

 このとき気付いたのは、大衆は国家予算や外交政策の詳細などには興味がない、ということだった。プロの政治家をすでに胡散臭く思っているので、たとえ実直に説明していても、「煙に巻こうとしているだけ」と感じてしまうのだろう。

 それにひきかえ、「オバマ大統領や議会は災害」「メキシコが送り込むのは、ドラッグと犯罪とレイプ魔」「アメリカは日本が関税なしで何百万もの車を売りつけてくるのを許しているくせに、貿易協定を結べずにいる」「イスラム教徒のアメリカ入国を禁じる」というトランプの言葉は、ふだん彼らが感じていることそのものだ。言いたくても言えなかった真実を代弁してくれるトランプに、観衆が引き込まれていくのが見える。

 さらに実感したのは、群集心理を察知する、トランプの天賦の才だ。
 トランプは、もとは「不動産王」として知られていたが、全米で2004年に始まった『アプレンティス』というテレビ番組で、全米のスターになった。参加者が「見習い(アプレンティス)」としてトランプの会社での採用を競うもので、課題に取り組んだ参加者が、番組の最後に重役室に呼ばれ、そのうち一人が、トランプから「お前はクビだ」と言い渡される。

 この独裁的な経営手法は専門家からは批判されたが、ビジネスの素人には非常にわかりやすくて面白い。視聴者は、テレビで観るトランプの「決断力とカリスマ性」に惹かれた。
(中略)

 トランプを冗談候補としてあざ笑っていた政治のプロたちは、彼が予備選に勝ちそうになってようやく慌てた。都市部のインテリとしか付き合いがない彼らには、地方の白人労働者の怒りや不信感が見えていなかったからだ。そんな彼らが読み始めたのが、本書『ヒルビリー・エレジー(田舎者の哀歌)』だ。

 無名の作家が書いたこのメモワール(回想記)が、静かにアメリカのベストセラーになっている。
 著者のJ・D・ヴァンスは、由緒あるイェール大学ロースクールを修了し、サンフランシスコのテクノロジー専門のベンチャー企業のプリンシパルとして働いている。よく見かけるタイプのエリートの半生記が、なぜこれだけ注目されるのかというと、ヴァンスの生い立ちが普通ではないからだ。

 ヴァンスの故郷ミドルタウンは、AKスチールという鉄鋼メーカーの本拠地として知られる、オハイオ州南部の地方都市である。かつて有力鉄鋼メーカーだったアームコ社の苦難を、川崎製鉄が資本提携という形で救ったのがAKスチールだが、グローバル時代のアメリカでは、ほかの製造業と同様に急速に衰退していった。失業、貧困、離婚、家庭内暴力、ドラッグが蔓延するヴァンスの故郷の高校は、州の最低の教育レベルで、しかも2割は卒業できない。大学に進学するのは少数で、トップの成績でも、ほかの州の大学に行くという発想などはない。大きな夢の限界はオハイオ州立大学だ。

 ヴァンスは、そのミドルタウンの中でも貧しく厳しい家庭環境で育った。両親は物心ついたときから離婚しており、看護師の母親は、新しい恋人を作っては別れ、そのたびに鬱やドラッグ依存症を繰り返す。
 母親代わりの祖母がヴァンスの唯一のよりどころだったが、十代で妊娠してケンタッキーから駈け落ちしてきた彼女も、貧困、家庭内暴力、アルコール依存症といった環境しか知らない。小説ではないかと思うほど波乱に満ちた家族のストーリーだ。

 こんな環境で高校をドロップアウトしかけていたヴァンスが、イェール大学のロースクールに行き、全米のトップ1%の裕福な層にたどり着いたのだ。この奇跡的な人生にも興味があるが、ベストセラーになった理由はそこではない。

 ヴァンスが「Hillbilly(ヒルビリー)」と呼ぶ故郷の人々は、トランプのもっとも強い支持基盤と重なるからだ。多くの知識人が誤解してきた「アメリカの労働者階級の白人」を、これほど鮮やかに説明する本は他にはないと言われる。


『ヒルビリー・エレジー』1:ヒルビリーあるいはスコッツ=アイリッシュの現状
『ヒルビリー・エレジー』2:白人労働者の政治意識

著者のバンス氏がインタビューで取り残された白人たちを語っています。


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